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職場内での発言や行動、または職場内での対人関係がうまくいかずに就労困難に陥る精神科疾患の中に「広汎性発達障害」があります。不注意・衝動性・多動性を主症状とした「注意欠陥多動性障害(ADHD)」、知的発達の遅れはないが、聞く・話す・読む・書く・計算する等の特定の能力の習得と使用に困難を示す「学習障害(LD)」は子供の頃から症状を抱えていて学童期に発見されやすい病気です。しかし当初は言葉の発達に遅れがあるもののやがて言語能力が発達して知的障害を伴わなくなった「高機能自閉症(自閉症の2割)」、言葉の発達に遅れがなく知的障害もなく社会性の欠如、コミュニケーション能力の欠如、興味の偏りを主症状とした「アスペルガー症候群」、またアスペルガー症候群と同様の特徴を持ち診断基準を満たさない「典型的ではない広汎性発達障害(PDD-NOS)」は子供の頃は自分では違和感を感じつつも発見されず成人してから社会生活や就労に問題を抱えてはじめて発見されることがあります。この中で「アスペルガー症候群」を例に挙げると3つの大きな特徴があります。<①社会性の欠如(集団の場の空気や相手の感情を読むのが苦手、会話はひとりで一方的にしゃべりがち、ひとりを好み他人への関心が低い、相手の表情や態度や行動への対応法がわからない)②コミュニケーションの障害(文言通りに言葉を受け取りたとえ話や冗談や皮肉はわからない、感情表現が苦手で流れに無関係な発言をする)③反復行動と狭い興味(同じ行動を反復しやすい、同じ状況を好み突然の変化でパニックになりやすい、特定のものに執着し全体が把握できない、同時進行が苦手)>このような症状で悩んでいる場合は地域の政令市や県の発達障害者支援センターに相談するのが一般的ですが、広汎性発達障害の「診断」を行ったり、「2次障害(うつ状態、不安状態、不眠等)の治療」を行ったり、「各種診断書の作成(精神障害者保健福祉手帳や自立支援医療意見書)」を行うのは、成人の広汎性発達障害に精通した精神科医療機関の仕事です。医療機関にうつや不安や不眠を主訴に受診し診察を受けた結果、広汎性発達障害が見つかる場合もあります。このように精神科や心療内科の鑑別診断において広汎性発達障害を見逃さないことは今後の治療や援助の方針決定において非常に重要であると言えるでしょう。

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「うつ状態」というのは気分が落ち込む、物事への興味や関心がない、生活や活動の意欲がない、考えがまとまらない、不安で落ち着かない、などといった主に大脳の前頭葉の活動の低下した状態で「症状」と考えるとわかりやすいと思います。一方「うつ病」は「うつ状態」が明らかに存在し国際標準の「うつ病」の診断基準を十分に満たしていて、かつその他の精神疾患や身体疾患をすべて除外診断してはじめて診断がつく「病名」です。つまり「症状」と「病名」の違いです。内科の病気で例えれば「胃もたれ」と「慢性胃炎」のような関係です。また「うつ状態」を呈する精神疾患は非常に数多くあり「うつ状態」と書かれた診断書だけでは病名を特定することは出来ません。これで企業の人事労務担当者や産業医の先生方も病態が理解できず非常に困ることが多いでしょう。精神科医が患者さんに「うつですね」とか「うつ状態です」と病名を言わずに症状だけ告知するのは何らかの理由があるにしても非常に曖昧な表現であるので、当院では患者さんにはきちんと病名を告知して病気の理解を得ていただいた上で治療を開始するように心がけています。

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